早大生だってふぉんと名人!?
~目立たないけど面白いふぉんとのはなし~

「フォントって何だろう? よく見出しに使われている文字とかかな?」と思っているそこのあなた!

今読んでいるこの文も、あなたの好きなあの本もそれぞれ個性を持ったフォントが使われているんです — source

 

そこで、今回はブックデザイナーの奥定泰之さんにお話を伺いました。ちょっとディープなフォントの世界を感じてみませんか?

 

 

ふぉんとインタビュー

奥定泰之先生
ブックデザイナー。表紙やカバーのみならず紙や本文の書体など本の設計に関するすべてを手掛ける。現在早稲田大学文化構想学部の「装丁と文学2」で教鞭をとっている。

 

 

——まず、フォントを意識しだしたきっかけを教えてください。

実際に細かいことを意識したのはデザインの現場に入ってからです。
でも、小さい頃から本が好きだったので、文字というものにはたくさん触れていました。たとえば、『エルマーのぼうけん』の石井細明朝とか。デジタルではなくて昔の写植時代のもので、品がありつつすっきりとして風通しのいい書体です。そういう細かい点は意識していなかったですが、子供のころに多くの良い書体を見た経験が影響していますね。
だから僕はどちらかと言えばロゴとかではなく本文のようなフォントの地味な部分が好きですね。

 

 

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石井細明朝の使われている『エルマーのぼうけん』

 

 

——本文、カバー、帯などすべて含めて、本全体にどのようなフォントの使い方を意識していますか。

カバーや帯と本文を揃えるっていうのはわりとやりますね。
『ウソはバレる』というビジネス本をデザインしたことがあるんです。この本は煽情的なタイトルですが中身はしっかりしたものなので、目立たせるとともにその雰囲気を全体に演出するデザインをしました。カバーは筑紫A見出ミンでどでかく文字を入れてトリッキーにしつつ、扉、目次、表紙と同じ書体をどんどん使っていくんです。そういう風な、外から中に浸透する書体設計思想をきちんと作ると、一本筋の通ったというかしっかりしているイメージになります。

 

 

——ブックデザインをする際に本文書体はどんな風に選んでいますか。

まずは、ジャンルと読者層に注意しますね。それから、読者が内容に入り込むのを邪魔しないように、フォントの主張を強くしすぎないことにも気をつけています。
たとえばビジネス本なんかはあまり本になじみのない人が読むわけです。その人たちが読みやすいようにたとえば筑紫明朝のLBというものを使うんです。筑紫明朝LBは黒地を白く抜くための書体で、形が強くしっかりしているから、パッと見たときに読みやすいって思わせられるんです。
でも、詩や小説は読者層とか読む動機が違いますよね。『耳の笹舟』という詩集は音を主題にしている詩集なのですが、音が聞こえてくるような文字を意識しました。漢字とかなの太さが1段階違うので視覚的に強弱が付いてリズム感のある本文になるんです。

 

 

——同じ本文でもフォントの太さを変えたりすることがあるんですね。

そうですね。太さを変えるだけでなく、合成フォントといって同じ本文の中で異なったフォントを使う場合もあります。
たとえば一番簡単な合成フォントは漢字とかなのフォントを別々のものに変えるものです。さらに複雑になると漢字とひらがなだけではなくて、ひらがなの中でも「の」はこのフォント、「ど」はこのフォントという風に細かく決めるんです。異なるフォントを混ぜて使っても不思議と通じるところがあるので、バランスが綺麗にとれた合成フォントのレシピが作れると嬉しいですね。合成フォントはフォントの醍醐味です。

 

 

——面白いですね。本文デザインではフォントを選ぶだけでなく、文字の配置もすると思うのですが、やはり文字組みも重要ですか。

大切ですね。
たとえば『顔をあらう水』という詩集と『オヤジ国憲法で行こう!』という本は本文に同じイワタ明朝体オールドというフォントを使っています。この書体はザ・文学という感じのフォントですごくきちっとした文字です。『顔をあらう水』にはその性質が表れているのですが、文字の大きさ、行間、とぼけた感じのルビなどによって『オヤジ国憲法で行こう!』という本ではザ・文学という印象を受けないんです。
だからフォントは同じでも組み方で見え方が変わってくるっていうのはありますね。

 

 

——ところで、奥定先生の好きな本文書体は何ですか。

そうですね……。いちばん好きなのは精興社書体っていう明朝体ですね。岩波文庫とかみすず書房で使われていて、僕の読書経験と結びついています。
でもこの書体は、一般には売られてなくて、精興社という印刷所でしか扱っていないんです。だから僕が本を作るときは、印刷所の方に指定して作ってもらっています。

 

 

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精興社書体が使われた本。

 

 

——逆にこんなフォントがあればいいのにと思うことはありますか。

良いゴシックですね。明朝体は写植時代の活字を復刻してデジタル化しているのに、意外とゴシックが復刻されていないのでしてほしいです。
特に、今あるものはシンプルなゴシックが多いので、少しにおいのついているゴシックが欲しいですね。最近で言うと筑紫アンティークゴシックっぽいものですね。
あとは本文を組めるゴシックも欲しいですね。最近できた秀英丸ゴシックなんかがそのイメージです。単調ではなくリズムのある本文が作れるような強弱のあるゴシックがいいですね。

 

 

——奥定さんは早稲田文学のフリーペーパーであるWBもデザインされていますよね。どのような意図でフォントの選択や配置をされていますか。

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これがWB1号ですね。始まりは、市川真人先生が表紙に文字がぎっしりとデザインされた文芸誌を見せてくれて、こういうイメージで作ってほしいと言ったんですよ。
文字を文字ではなく絵とかシミに見せることを意識しました。文字で写真を隠したり見せたりするようなイメージです。文字が写真と融合して一枚の絵として見えるようにしたかったんです。

 

 

——WBのように本文以外にもフォントはさまざまなデザインに使われると思いますが、フォントの力とはどのようなものでしょうか。

広告でもなんでも、文字を読むことにはそのフォントの持つイメージが必ずついてくるという点だと思います。だからどんなデザインの面でも書体を選ぶことは大切ですね。
皆さんも本などを読みながら書体を知らず知らずのうちに記憶していると思うんです。それで、あとになってその書体を見たときに懐かしい気持ちになるんですよね。
それがフォントの力だと思います。

 

 

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——そのフォントの力なのですが、学生がレポートなどで有効活用することができるでしょうか。

たとえば初期設定のままMS明朝を使うんだったら同じく標準搭載された游明朝を使ったほうがいいと思いますね。游明朝の方が仮名が少し小さいのでリズムのついた文になって機械的に見えにくいと思います。
あと、書体をちゃんと選ぶ以外にも、空きとか行間とか文字の大きさとかもきっちり選んだ方がいいですね。コンピューターを持っているから、フォントというものの意識はもともとあるし、すぐに実践できますよね。恵まれているなと思います。
ただ、たくさん書体があって選ぶのが大変だとも思いますね。だからこそそれぞれの文に合った書体を選ぶようなリテラシーはどんどん学んでいかないといけないと思います。

 

 

——デザインをやっていないような早稲田の学生でもフォントのリテラシーとは身に着けられるでしょうか。

本を読んだ経験がたくさんあると思うので身に着けやすいんじゃないかと思います。
僕は早稲田の子たちだけじゃなくて、アート系やデザイン系の子たちも教えているのですが、アート系の子たちは広告とかはすごくうまくても、本文を組むとなるとそんなにうまくいかないんです。やっぱり本を読む経験が積み重なることはフォントの意識を持つ点で大きいので、本文組みのようなフォントになると、文字を読むのが好きっていう子たちのほうが意識は高いと思います。

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